膵がん、腹膜播種 に対する プラズマ治療 の可能性

—プラズマ活性溶液を用いた新規治療法の開発—

名古屋大学

Press Release

平成29年11月21日

名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長:門松 健治)消化器外科学の山田 豪(や まだ すぐる)講師、

佐藤 雄介(さとう ゆうすけ)大学院生、小寺 泰弘(こでら やす ひろ)教授らのグループは、

同大学医学部附属病院先端医療・臨床研究支援センターの 水野 正明(みずの まさあき)

病院教授ならびに同大学未来社会創造機構の堀 勝(ほり まさる)教授との共同研究により、

プラズマ活性乳酸リンゲル液が、膵癌腹膜播種※1治 療の新たな治療戦略となる可能性があることを明らかにしました。

近年、膵癌患者は増加しているものの難治性であり、遠隔転移の一つである腹膜播種 は制御困難であるだけでなく、

消化管閉塞や腹水などを引き起こし、患者の生活の質を 著しく低下させます。

本学医学部附属病院では、腹膜播種に対して全身化学療法や抗癌 剤の腹腔内投与などが試みられていますが

、効果的な治療戦略は確立されておらず、新 たな治療法が求められています。

近年、大気圧プラズマ※2の癌治療への応用が盛んに研 究されており、

手術、抗癌剤治療、放射線治療に次ぐ新たな治療法として注目されてい ます。

これまで当グループでは、プラズマを照射した培養液が、膵癌や胃癌に対して抗 腫瘍効果があることを報告してきましたが

、今後の臨床応用に向けて、人へ投与可能な 溶液を用いたプラズマ活性溶液の開発が求められていました。

本研究では、日常の診療で使用されている乳酸リンゲル液にプラズマを照射した“プ ラズマ活性乳酸リンゲル液”を作成し、

膵癌細胞株に対する抗腫瘍効果を明らかにしま した。さらに、マウスの膵癌腹膜播種モデルを用い、

プラズマ活性乳酸リンゲル液を腹 腔内へ投与することにより、腹膜播種の形成が抑制されることを示しました。

これらの 研究結果はプラズマ治療の臨床応用への大きな一歩であり、

難治性疾患である膵癌に対 する新たな治療戦略となることが期待されます。

本研究成果は、国際科学雑誌「Annals of Surgical Oncology」( 2017 年 11 月 14 日付 の電子版)に掲載されました。

 

膵癌腹膜播種に対するプラズマ治療の可能性 —プラズマ活性溶液を用いた新規治療法の開発—

ポイント ○乳酸リンゲル液に大気圧プラズマを照射したプラズマ活性乳酸リンゲル液が

、膵癌細胞 株に対して抗腫瘍効果があることを明らかにしました。

○プラズマ活性乳酸リンゲル液が細胞の接着能を低下させることが示されました。

○プラズマ活性乳酸リンゲル液が腹膜播種形成を抑制することが示され、膵癌腹膜播種に 対する新たな治療戦略となる可能性が明らかとなりました。

1.背 景

日本における膵癌の年間罹患者数は 34,800 人、年間死亡者数は 30,700 人となってお り、

膵癌は他の癌種に比べて死亡率が極めて高く、難治性疾患の一つです。

特に、腹膜播 種をきたした場合は予後不良であるばかりでなく、

腹水の貯留や消化管の閉塞により生活 の質を大きく低下させることがあります。

これまで、抗癌剤の全身投与や、臨床試験とし て抗癌剤の腹腔内投与などが試みられてきましたが、

いまだ満足のいく結果は得られてお らず、新たな治療法の開発が求められています。

近年、大気圧プラズマの医療応用が広が り、癌治療の分野においても盛んに研究され、

手術や抗癌剤治療、放射線治療に次ぐ新た な治療法として注目されています。

当研究グループでは、プラズマを照射した培養液(プ ラズマ活性培養液)を作成し、

胃癌や膵癌においてその抗腫瘍効果について報告を行って きました。

しかしながら、培養液は臨床での使用には適さず、人に投与可能なプラズマ活 性溶液の作成が求められています。

2.研究成果

本学で開発した大気圧プラズマ発生装置を用い、日常診療で使用されている乳酸リンゲ ル液にプラズマを照射して”プラズマ活性乳酸リンゲル液

(PAL)”を作成しました。ま ず、PAL を膵癌細胞に投与すると、細胞死を介した抗腫瘍効果をもたらすことが示され ました。

また、これまでの研究においても、プラズマの抗腫瘍効果には活性酸素種※3が 重要な働きをしていることが報告されています。

本研究では、活性酸素種の阻害物質とと もに PAL を膵癌細胞に投与しました。

すると、その抗腫瘍効果は阻害され、PAL の抗腫 瘍効果においても活性酸素種が重要な働きをしていることが明らかになりました。

さらに、マウス膵癌腹膜播種モデルを用いて PAL の有効性、安全性について検討を行 いました。

膵癌細胞をマウスの腹腔内に投与し、経時的に腹膜播種の形成状況を生体発光 イメージングにより観察したところ、

PAL を投与しなかった群では経時的に腹膜播種が 増大・増加したのに比べ、

PAL 投与群では腹膜播種がわずかしか形成されず、PAL に腹 膜播種形成を抑制する効果があることが示されました。

また、この実験中、PAL 投与群 においては明らかな有害事象を認めませんでした。

以上より、PAL が膵癌腹膜播種に対 する新たな治療戦略となり得ることが明らかとなりました。

する新たな治療戦略となり得ることが明らかとなりました。

PAL 投与群(図右)及び非投与群(図左)における腹膜播種の形成経過

3.今後の展開

本研究では、臨床で使用可能な溶液を用いたプラズマ活性溶液の有用性が明らかとなり ました。

今後の臨床応用に向けては、作用機序のさらなる解明が必要となります。

また、 より治療効果の高いプラズマ活性溶液の作成を目指していきます。

4.用語説明

※1.腹膜播種:癌の転移形式の一つで、種を蒔くように腹腔内に癌細胞が広がり、

腹膜 に腫瘍の塊を形成します。腹水貯留や腸閉塞を来たし、痛みや腹部膨満 感などの症状を引き起こします。

※2.大気圧プラズマ:プラズマは個体、液体、気体に続く“物質の第4の状態”であ り、

電子や陽イオン、ラジカルなどから構成され、高エネルギー状態に あります。

以前は、高温低圧下でしか発生させることができませんでし たが、

大気圧低温下でも発生させることが可能となり、産業・工業分野 のみならず医療分野においても応用が進められています。

※3.活性酸素種:酸素分子が不対電子を獲得し、反応性が高くなった化合物のことを総 称して活性酸素種とよびます。

プラズマの抗腫瘍効果においては活性酸 素種が重要な働きをすることが以前から指摘されています。

5.発表雑誌
1Department of Gastroenterological Surgery (Surgery II), 2Department of Obstetrics and Gynecology, 3Center for Advanced Medicine and Clinical Research, Nagoya University Graduate School of Medicine, Tsurumai-cho 65, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan; 4Plasma Nanotechnology Research Center, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 4648603, Japan ” Effect of plasma-activated lactated Ringer’s solution on pancreatic cancer cells in vitro and in vivo ” Annals of Surgical Oncology (2017 年 11 月 14 日付けの電子版に掲載) DOI:10.1245/s10434-017-6239-y

English ver. https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Annals_of_S_20171121en.pdf
Yusuke Sato, MD1, Suguru Yamada, MD, PhD, FACS1, Shigeomi Takeda, MD1, Norifumi Hattori, MD, PhD1, Kae Nakamura, PhD2, Hiromasa Tanaka, PhD3, Masaaki Mizuno, MD, PhD3, Masaru Hori, PhD4 and Yasuhiro Kodera, MD, PhD, FACS1